木彫刻師になるには【2】

木彫刻師になりたいと思うきっかけは、人それぞれあると思いますが、私の木彫の道に入るきっかけを紹介したいと思います。

木彫の道を選んだきっかけ

私は子供の頃から図画や工作が好きでした。しかしながら木彫についてはほとんどの方がそうであろう、授業で木版画を彫った程度でした。高校生なり授業で「アイデンティティー」という言葉を知り、そのころから自分の特性など意識するようになり、すこしずつ将来について考えるようになりました。
ちょうど、そのころたまたま早起きして何気なくTVをつけると、伝統工芸を紹介するドキュメンタリー番組をやっていました。その番組は井波彫刻師の親子が欄間の注文をもらってお客さんの家に納めるまでを追ったものでした。「松に鶴」の図案の欄間でしたが、鶴が枠から飛び出してくるような立体感のある彫りに目を奪われました。また井波彫刻は基本的に問屋を通さず、受注、デザイン、制作、納品まですべて個人で行います。自分だけの技術を駆使して制作し、お客さんに直接届け、喜んだ顔が見ることができる。こんなに自分のアイデンティティー(特性)を感じられる職業はないとその時思いました。


進路を決める頃になり、思い切って母に相談してみました。私は長男で家も自営業ですし、私立大学の付属高校に行かせてもらっていたので、反対されるかと思いましたが、思いのほか協力してくれました。私は子供の頃からいくつも習い事をさせてもらいましたが、自分からこれがやりたいと言った事がなく、初めて自分からやりたいことを言ったので協力しようと思ったと後に母から聞きました。母の協力もあり、富山県に井波という彫刻のまちがあり、木彫の訓練校があるという事がわかり、高校を卒業後、井波での木彫の道がはじまりました。
昨年、彫刻組合の懇親会の席で、私が高校生の時にTVで観た彫刻師の方にお酒を注がせてもらう機会がありました。もう80歳半ばの重鎮の方です。今まであまりお話しする事が無く、顔も認識してもらえてるかどうかと思っていましたが、お声を掛けると「いつも作品はみてるよ、いい仕事してるね」と言って頂き、とても嬉しく感動しました。高校生の時の自分に教えてあげたいできごとでした。

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